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犬とのやり取りはまさにキャッチボール!
一個のボールを大切に。

以前、愛犬に芸はさせたくないという理由で、オスワリやフセなどを教えていないという飼い主さんがいらっしゃいました(同様の考えの飼い主さんは決して少なくありません)。とはいえ相談内容に挙がっていたお散歩中の吠え対策には、オスワリの有用性も話させていただく必要がありました(吠えの要因である興奮の抑制のほか、急な突進や飛びつきの防止、周囲に与える安心感など)。飼い主さんの了解を得て、フードを使ってオスワリのポーズを教え、オスワリという言葉(声符)やオスワリを促す手振り(視符)でこちらの指示でオスワリをするやり取りをしました。同じことを飼い主さんにもしていただき、こちらの意向が伝わる喜びや意欲的な愛犬の姿から、異種動物間の前向きなコミュニケーションであることを実感していただきました。
もちろん、オスワリだけで吠える行動がなくなれば良いのですが多くはそうはいきません。まずは、どんな刺激に反応して吠えるのか、対象物を遠ざけるための警戒吠えなのか、逆に好奇心や近づきたい一心で吠えてしまうのか、それらの傾向を助長している振る舞いが飼い主さんの行動の中に存在しないか、吠えたことで結果的に犬にどんなメリットが存在するか、社会化期をどう過ごしたか、動物としての欲求はどの程度満たされているか、あるいは身体的な弱点を抱えていたり性的な欲求や興奮はないか、、など様々な視点から吠える理由や原因を探り、飼い主さんの行動を含む生活環境の見直しや分化強化をベースに、多くは拮抗条件付けや系統的脱感作法を用いて改善に取り組むことになります。これらは、一方的に犬を叱りつけたり痛みやショックで行動にフタをしていくトレーニング方法ではありません。基本的に犬との前向きなコミュニケーションのもと行うトレーニング方法です。前向きなコミュニケーションとは、少なからず両者にポジティブな感情の生起があり、関係性をより良くするものです。オスワリもまさにその前向きなコミュニケーションであるのが望ましいです(正の強化によるもの)。様々なトレーニングに有用な基本的なやり取りという意味だけでなく、私たち人間と同じ社会的動物として互いの情動がプラスに働くやり取りは、人間社会で生きる犬にとって安心材料や自信につながると思います。

キャッチボールの心掛けを!

野球のキャッチボールの基本は、つねに相手が捕りやすい胸元にボールを投げることです。もし相手の捕りにくい場所にボールを投げてしまった時は軽く詫びたりします。両者のそのような心掛けが、軽快なキャッチボールにつながっていきます。
犬とのやり取りも同じです。基本は愛犬が受け取りやすいよう明確な指示を出してあげることです。たとえば、ご家族で指示語が統一されてなかったり話し口調だとしたら、愛犬は毎回半信半疑のなか辛うじてボールを受け取ってくれていると考えられます。また、いくら明確な指示でも、愛犬の意識がまるでこちらを向いていなかったら当然受け取るのは困難です。しばしば、そっぽを向いている愛犬に指示を連呼している飼い主さんを見かけますが、これでは、横を向いているキャッチボール相手に次々とボールを投げ込んでいるようなものです。まずは愛犬の意識をこちらに向けてから指示を出すことが大切です。
そして、キャッチボールで大事なことがもうひとつ。それは相手が投げたボールを「スパン!」と気持ち良い音で受け止めてあげることです。それにはボールの質や精度を賞賛する「ナイスボール!」といった気持ちが込められています。犬とのやり取りでも、指示をカタチにした愛犬の素晴らしい行動を、しっかりと賞賛で受け止めてあげることはとても重要です。犬は賞賛を受けたことで正解と知り、その一連の行動の再現性を高めます。
キャッチボールは、上手な相手とすると自分も上手になったような自信が得られるものです。同時に、その相手に対してどこか信頼や安心感、敬意のようなものが芽生えます。犬との信頼関係も、キャッチボールのような日常のやり取りの中で、愛犬に易しさや自信を与えることで深まるものと私は思っています。

一個のボールを大切に。

キャッチボールは会話のようなものです。受け取りやすい指示とは、犬から見て紛れもない一個のボール、一球です。この一球を必ず受け取らせてあげるという気持ちが大切です。一球を大事に扱うことで、私たち投げる側のコントロールはもちろんのこと、受け取り側である愛犬のその時の意識や状態に配慮したタイミングや球質を考えてあげられるようになります。愛犬とのやり取りを、どこか命令や強制的なものとしてだけ捉えるのでなく、キャッチボールのような会話と捉えることで両者の心の距離もより縮まってくるのではないかと思います。
会話は一生続くものです。高齢でやっとのお手しかできない愛犬になっても、そのボールを大事に磨き続け、易しいボールを笑顔でほおってあげられる飼い主になりたいです。

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